第4章 スポーツの本質(前半)
Ⅰ スポーツパーソンシップについて考える
―プロ野球選手の思考技術から学ぶ―
3年生は秋の愛知県大会でベスト16、夏の東愛知大会でベスト16だった。この結果がよかったのか、本当はもっと上を目指せたのかは今となっては分からない。でも、選手たちは、メンタルトレーニングで伝えたことを十分にやりきることができたと思う。
その一方で、メンタルトレーニングで学んだことを選手がしっかりとやったにもかかわらず勝てなかったという事実を真摯に受け止める必要がある。勝つことが全てではないが、もっと良い方法があるのは間違いない。メンタルトレーニングの内容についても改善が必要だろう。
2018年8月5日、名古屋大学に元千葉ロッテマリーンズの荻野忠寛投手を呼び、「スポーツパーソンシップからハラスメントについて考える」というセミナーを開催した。
荻野さんは2008年にはクローザーとして30セーブを記録した投手で、プロ野球を引退後は、野球やスポーツの技術指導だけでなく、スポーツの価値、そのスポーツに関わる人の価値の向上につながるようアドバイスをしている。また、一流と呼ばれる人や、同じことをしても、他の人よりも成果を出せる人が持つ「センス」と言われる部分を向上させることを目指し、トレーニング指導や講演活動を行っている。
私は荻野さんと一緒にセミナーを企画する中で、プロ野球選手が考えていることを教えてもらう機会があったが、やはり想像以上に思考技術が高い。
プロとアマチュアの差は果てしなく大きいが、逆に言えば、プロの思考技術を少しでも獲得することができれば、チームのパフォーマンスは、さらに向上すると考えられる。
プロから学ぶことで何か糸口が見つかるはずである。
荻野さんの話から、いかにスポーツパーソンシップが重要なことであるのかを再確認した。まさにスポーツの本質とも言えることであり、チームが強くなることにとどまらず、部活動を引退してから、その後の人生に必ず役に立つものだと思った。
そこで刈谷工業野球部でもスポーツパーソンシップ教育を行うことが重要だと考えた。
―スポーツパーソンシップとは何か―
2018年9月26日のメンタルトレーニングでは、8月5日のスポーツハラスメントのセミナー資料を参考にレジュメを作成し、スポーツパーソンシップについて講義をした。
まずスポーツパーソンの義務は以下の通りある。
- 完全な忠誠をもってルールの条文とその精神に従わなければならない。
- どんな状況においても公衆に対し正しい態度を保持しなければならない。
- 競技の前後、最中において、相手、および審判を尊重しなければならない。
- 常に自制を保ち、自己の冷静さと尊厳を保持しなくてはならない。
- 勝利のために最善を尽くすが、敗北に伴う落胆を避け、勝利に伴う放漫を諌める。
- スポーツパーソンの得る報酬は、努力から生まれる喜びと充実している存在の感情である。
スポーツパーソンシップ(スポーツ精神)については、①感情のコントロール、②相手に対する思いやり、③フェアプレーについて話し合った。
①感情のコントロール
- どんな状況においても自分自身をコントロールして、冷静に物事を見る。
- 勝ちや成功におごらず、また、負けてふてくされたり、落胆することなく次に備える。
- 負けた時、自分の感情を抑えて相手の勝利や成功をたたえ、それに負けないように自分が努力する。
②相手に対する思いやり
- 相手の素晴らしかったプレーを評価し敬意を持つ。
- 自分たちがやられて気分が悪いと感じることは相手にもしない。
- 相手あってのスポーツなので、相手に気分よくプレーしてもらい、それでも負けないぞという気持ちでお互いに勝つために全力でプレーする。
- プレーヤー、審判、観衆、など、ゲームに関わるみんなでいい試合を作っていく。
③フェアプレー
- プレーヤー(味方と相手)、ルール、審判を尊重し全力を尽くす。
- スポーツにルールができたのは、暴力をなくすことや、相手と条件を同じにするためや、ルールを作ることにより難易度を上げ、より楽しめるようにするためである。
- ルールを守ることで、より良い試合ができるようになる。
- そのルールを運用し試合を円滑に進めるサポートをするのが審判である。
例えば、勝ちや成功におごらず、また、負けてふてくされたり、落胆することなく次に備えることが重要である。
これは試合でのプレーにも言えるが、相手と試合する前から、レギュラーになるためのチーム内の競争がある。
誰でも試合に出たいと思うが、スポーツパーソンは、チーム内の競争に敗れて試合に出られなかったとしても、そこでふてくされるのではなく、その状況でチームに貢献できることは何かを考える。
試合に出ている選手だけががんばるのではなく、チーム全員で戦う、そういうチームになってほしいと思う。
新チームは、秋の西三河大会の一次リーグは突破したが、二次トーナメントで敗れ、県大会には出場できなかった。その原因は、本番で感情をコントロールすることができずに力を発揮できなかったことが大きい。
スポーツパーソンシップで重要とされる感情のコントロールとは、メンタルトレーニングと共通する課題でもあると言える。
「卓越性の追求」というキーワードも選手には響いたようである。よいチームを作るためには、刈谷工業では、ポジティブフィードバックを大切にしている。しかし、単なる仲良しグループでは、本当のチームとは言えない。仲間同士で卓越性を追求し、お互いのパフォーマンスを向上、上達を目指す仲間関係を築いてほしい。
スポーツの価値とは、成果や結果ではなく、勝利や成功を目指して努力する過程にこそあると思う。そんなチームを作ることに少しでも貢献できたらと思う。
道のりは遠いけど、伸びしろは無限にある高校生たち。これからメンタルトレーニングの時間を通して、選手たちと一緒に成長していくことができたらと思う。