第9章 コロナ危機に問われるもの
Ⅰ 野球ができない日々
―選抜甲子園、春季大会の中止―
2020年3月2日、世界的に感染が拡大している新型コロナウィルスの影響から、日本の政府は、全国の小中学校、高校等に臨時休校を要請した。
そして、3月11日、日本高野連は第92回選抜高校野球大会の中止を発表。
同月4日には無観客で開催する方向を示していたが、新型コロナウィルス対策に万全の体制を整えることが難しいという判断から、開催を断念した。
その後、2020年東京オリンピックが延期になったことを考えれば、今回の判断は仕方がなかったと思う。
その結果、3月に予定していた春季大会は全て中止となった。
選手たちは、春季大会愛知県ベスト8を目標に冬の厳しいトレーニングをがんばってきた。
しかし、新型コロナウィルスという自分たちの力の及ばない困難によって、目標に対する挑戦への道は閉ざされてしまった。
野球をする以前に、人類の命を守ることが大切なことは明らかではあるが、これまでの選手たちの努力を考えると、今回の中止という判断は本当に残念である。
―オンラインによるメンタルトレーニング―
3月2日から要請された臨時休校は、3月19日の終業式までの予定であった。
そのため、3月20日から校内のみの活動に限定して部活動が再開した。
しかし、始業式の4月7日には緊急事態宣言が発令され、学校は臨時休校となり、またもや部活動も自粛になった。
刈谷工業野球部の選手にとっては、大会出場どころか野球ができない日々が続いた。
このような状況の中で、何かできることはないか考えた結果、4月の休校中にZoomというオンランシステムを活用したメンタルトレーニングを不定期で実施することにした。
緊急事態宣言は、ゴールデンウイーク明けの5月6日までの予定であったが、感染拡大の状況を考えれば、休校が延長されることも十分に考えられる。
もともと3月19日までの休校であり、3月20日から練習を再開して、春の大会は実施されると思っていたら中止。そして4月7日からは再び、部活動自粛になった。さらには5月になっても練習再開の見通しすら見えない状況であれば、心が折れてしまってもおかしくない。
こうした危機的な状況を支えるのは大人の責任であり、できる限りのサポートをしたいと思った。
社会人のための学び場のエッセンシャル・マネジメント・スクール(EMS)のみなさんも刈谷工業のことを応援しており、Zoomを使ったオンラインのセッションには多くの方がサポートのために参加してくれた。
オンラインのセッションでは、自粛中でもできるトレーニングについて話し合った。
15 Minutes Focusの応用で、短時間で可能なメニューを組み合わせて、集中して取り組むことが重要である。
学校が休校になり、野球の全体の練習もできない中で、選手のセルフマネジメントがより重要になってくる。
自粛中に時間はたくさんある。その時間を生かすも殺すも選手次第である。
気持ちをコントロールするのが難しい状況ではあるが、そうした中でもモチベーションを何とか維持していってほしいと思った。
―オンラインによる食育セミナー―
5月1日は、食育のプロの大島裕子さんを講師として呼び、オンラインで食育セミナーを実施した。
「今」そして「未来」の「いのち」を輝かせるために、何が必要なのかを考えてもらうことが目的である。
大島さんには、今の「いのち」を守り、いつか野球ができるときのパフォーマンスを向上させるため、さらには野球をやめてからの人生にも役立つ素敵な食育のお話をしてもらった。
選手は全員参加、さらには、保護者でも参加してくださる方がいた。
食育の本質的な話から、栄養の専門的な話、さらには、一日のスケジュールの中での具体的な捕食の仕方まで、盛りだくさんの内容であった。
その内容はもちろんだが、今回のオンラインのセミナーのためにスーツを着て真剣に語りかけてくれる大島さんの姿勢が何よりもうれしかった。
刈谷工業を本気でサポートしようという思いが伝わってきた。
このように目標に向かって、ひたむきにがんばる刈谷工業には多くの応援してくれる人がいる。
野球ができない日々は本当につらいと思うが、応援するみなさんの思いが少しでも届くとよいと思った。